大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和55年(ワ)1728号 判決 1988年12月27日

原告(両事件)

吉 澤 昇 吉

右訴訟代理人弁護士

幣 原   廣

吉 澤 照 子

吉 澤 安 子

右両名訴訟代理人弁護士

今 井 隆 雄

新 里 光 子

加 藤 絹 子

二 宮 邦 子

右三名訴訟代理人弁護士

元 田 秀 治

被告(昭和五五年(ワ)第一七二八号事件)

吉 澤 礼 吉

右訴訟代理人弁護士

寺 島 健 造

亡漆原栄三承継人

漆 原 榮 治

上 田 静 子

安 藤 芳 子

漆 原 慶 三

右四名訴訟代理人弁護士

奥 中 克 治

吉 澤 米 吉

吉 澤 英 吉

被告(昭和六三年(ワ)第六二一九号事件)

吉 澤 秀 吉

右両名訴訟代理人弁護士

肥 沼 太 郎

三 﨑 恒 夫

主文

一  原告らの本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  別紙物件目録(一)ないし(五)記載の不動産(以下「本件物件」という。)について競売を命じ、その売得金を別紙分割目録記載のとおりに分割する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告吉澤米吉を除く。)

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件物件は、吉澤音吉が所有するところであった。

2  吉澤音吉は、昭和二九年一〇月に死亡し、左記の者らが、本件物件を法定相続分に従って、相続承継した。

(一) 吉澤ゆき(吉澤音吉の妻)

一五分の五

(二) 被告吉澤礼吉(同人の長男)

一五分の一

(三) 被告吉澤米吉(同人の次男)

(四) 被告吉澤英吉(同人の三男)

(五) 被告吉澤秀吉(同人の四男)

(六) 原告吉澤昇吉(同人の五男)

(七) 原告吉澤照子(同人の長女)

(八) 富田博子(同人の次女)

(九) 原告新里光子(同人の三女)

(一〇) 原告吉澤安子(同人の四女)

(一一) 原告加藤絹子(同人の五女)

しかし、右相続について、共同相続人間で、遺産分割はいまだなされていない。

3  その後、右各共同相続人の本件物件についての共有持分権には次のとおりの変動が生じた。

(一) 被告吉澤秀吉は、昭和四三年一一月に、同人の前記共有持分権を、漆原栄三に売却した。

(二) 富田博子は、昭和四五年に死亡し、同人の前記共有持分権を、同人の子である原告二宮邦子が相続承継した。

(三) 吉澤ゆきは、昭和五八年一月二六日に死亡し、同人の前記共有持分権を、前記2の(二)ないし(七)及び(九)ないし(二)の九名の子供らと前記富田博子の子である原告二宮邦子が、法定相続分に従って相続承継した。

(四) 漆原栄三は、昭和五七年四月九日に死亡し、同人の前記共有持分権を、同人の子である被告漆原榮治、同上田静子、同安藤芳子及び同漆原慶三の四名(以下「漆原四名」という。)が、法定相続分に従って、相続承継した。

4  以上の経過で、本件物件は、別紙分割目録記載のとおりの共有関係となっている。

5  本件物件について、前記4の共有者間での分割協議が調わない。

よって、原告らは、民法二五八条に基づき、請求の趣旨記載のとおり、本件物件の分割を請求する。

二  請求原因に対する認否

1  被告吉澤礼吉及び同吉澤英吉請求原因1及び2の事実は認める。

2  被告吉澤秀吉

(一) 請求原因1及び2の事実は認める。

(二) 同3の(一)の事実は否認する。

三  抗弁

1  被告吉澤礼吉

被告吉澤礼吉は、原告吉澤昇吉から昭和三三年九月三〇日ころ、請求原因2記載の同人の共有持分権を買い受けた。

2  被告漆原四名

(一) 漆原栄三は、吉澤ゆき、富田博子及び被告吉澤礼吉から、請求原因2記載の同人らの各共有持分権を、昭和四三年六月一〇日に代金合計四九〇〇万円で買い受けた。

(二) 漆原栄三は、被告吉澤米吉から、請求原因2記載の同人の共有持分権を、昭和四三年七月五日に代金六〇〇万円で買い受けた。

四  抗弁に対する認否

すべて否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一本訴において、原告らが主張するところは、原告ら及び被告らの共有物である本件物件について、分割の協議が調わないから、民法二五八条に基づき共有物の分割を求めるというものである。

二そこで、原告らが本件物件の共有持分権を取得した原因についてみるに、原告らと被告吉澤礼吉、同吉澤英吉及び同吉澤秀吉との間では争いがなく、その余の被告らは明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべき請求原因1及び2の事実によれば、本件物件は亡吉澤音吉の遺産であって、原告二宮邦子を除く原告ら五名及び富田博子が吉澤ゆき、被告吉澤礼吉、同吉澤米吉、同吉澤英吉及び同吉澤秀吉とともに共同相続したものであるが、遺産の分割について、当事者間においていまだ協議が調っていないことが認められる。

三このように、遺産相続により相続人の共有となった財産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家事審判法の定めるところに従い、家庭裁判所が審判によってこれを定めるべきものであり、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではないと解するのが相当である。

四もっとも、共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産について同人の有する共有持分権を譲り受けた第三者は、適法にその権利を取得することができ、他の共同相続人とともに右不動産を共同所有する関係にたつものであって、このような第三者が右共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続は、民法九〇七条に基づく遺産分割審判ではなく、例外的に民法二五八条に基づく共有物分割訴訟であると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、原告らは、請求原因3の(一)及び(四)において、共同相続人の一人である被告吉澤秀吉が、相続によって取得した、本件物件の共有持分権を、第三者たる漆原栄三に売却し、被告漆原四名が、これを相続承継した旨を主張するものである。

しかしながら、本件訴訟において、被告漆原四名は、被告の地位にたっているものであって、原告の地位にたって、本件物件の分割を求めているものではなく、しかも、原告の地位にたって、本件物件の分割を求めている原告らは、前記説示のとおり、他の共同相続人らに対して右分割を求めるためには、遺産分割の手続をとるべき地位にあるにもかかわらず、被告漆原四名に加えて、他の共同相続人であるその余の被告らをも被告としているものである。このように、相続財産について、共同相続人以外の第三者が共有持分権者となっていても、共有持分権を有する共同相続人の一部が、右第三者及び他の共同相続人を相手方として、共有関係の解消を求める場合は、右第三者あるいは共有持分権を有する共同相続人全員のいずれか一方が、両者間に生じている共同所有関係の解消を求めることを許容する前記例外的場合にあたるものではないから民法二五八条に基づく共有物分割訴訟手続をとりうるものと解することはできない。

五以上によれば、本件訴えは不適法として却下を免れず、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官楠本 新)

別紙物件目録<省略>

別紙分割目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例